Thursday, April 5, 2018

音楽の起源、ただし構造的な

ベルクソン『時間と自由』(中村文郎訳)より。
他人の会話を聞いていると、自分も唇を動かさずにはいられない或る種の精神病者たちがいるが、これは誰にしも起こることを誇張しているだけなのである。もし聞いた音を私たちが内心で繰り返し、そうすることで音がそこから出てきた心的状態へ、つまり言葉では言い表せないが、身体全体がとる運動によって暗示される原初の状態へ自分を移し直しているのだということを認めないとしたら、音楽の表現的な、あるいはむしろ暗示的な能力をどうして理解できるだろうか。
音楽の起源に関する考察。
起源といっても、史的起源というより構造的起源。そのプリミティブなスケッチ。

ベルクソンは身体の仕組みや状態と結びつけて、人間の心的状態を考える。
これに続く箇所では、音程がなぜ高低の違いとして認識されるかを、人間の声の出し方から説明している。人間は声を出すとき、肺(すなわち低い位置にある器官)から、口や鼻(高い位置にある器官)に向けて息を押し出すが、高い声になるほどの高位の器官の負担が大きくなるからである、と。

Friday, December 29, 2017

「類似性の理論」抜き書き

模倣に関するヴァルター・ベンヤミンの小論「類似性の理論」から抜き書き。
自然はさまざまな類似性を生み出す。擬態のことを考えてみるだけでよい。しかし、類似性を生み出すもっとも優れた能力をもっているのは、人間である。それどころか、人間の備える高度な機能のうち、模倣の能力によって規定されていないものはおそらくないだろう。
子どもの遊びにはいたるところで模倣的な行動様式が浸透している。しかもその領域は、人間がほかの人間の真似をするといったことには決して限られない。子どもは、お店屋さんごっこや先生の真似をして遊ぶだけでなく、風車の真似や電車ごっこをしたりもする。
論の本筋は以下の通り。
占星術について述べておけば、非感性的類似という概念を理解してもらうには十分だろう。言うまでもないことだが、これは相対的な概念である。つまり、ある星の配置と一人の人間のあいだに存在する類似性ということが問題になりえた状況は、われわれの知覚のうちにはもはや存在しないということだ。しかしながら、非感性的類似という概念にまとわりついている不明確さをより明確なものにするための規範(カノン)はわれわれにもある。その規範とは言語である。
星や内蔵や偶然の出来事から何かを読み解くということが、人類の太古の時代にあっては、読むという行為そのものであったとすれば、さらにまた、ある新しい読みへといたる媒介項──ルーネ文字はそのようなものだった──が存在したとすれば、次のように想定してみるのも、きわめて自然なことである。つまり、かつて未来などを見通す力の基盤であった模倣の才能が、何千年もかけて発展していくうちに、ほんとうに少しずつ、言語や文字のなかへと入り込んでいき、言語や文字のうちで、非感性的類似のもっとも完成された書庫となっていったということである。
すなわち、人間の持つ模倣の能力はかつてに比べて大きく損なわれているように見えるが、じつは言語や文字として完成されたのである。

論の最後に「補足」として記された次の段落は結論ではなく、論の途中にはさみ込むべきもの。
われわれがもっている、類似性を見るという才能は、似たものになりたい、また似たふるまいをしたいという、かつて圧倒的にわれわれに強く迫っていた力の単なる弱々しい残骸にほかならない。似たものになるという、あのどこかに失われてしまった能力は、われわれがまだ類似性を見ることができるこの狭い知覚世界をはるかに遠く越えてゆくものであった。何千年も前に、誕生の瞬間、一人の人間のうちに星の位置が及ぼしていた力は、類似性に基づいて織り込まれたものだったのだ。
いずれも山口裕之編訳『ベンヤミン・アンソロジー』より。

Monday, June 19, 2017

ビートルズの影響ではじまった若者の顔ヒゲ

再掲「学生の顔ヒゲの変遷、100年分」

University Graduate Facial Hair Styles 1898-2008 [OC] : dataisbeautiful

このグラフは北米の学生における顔ヒゲの割合を示したもの。先日の記事では、ヒゲの流行の背景に経済的要因があるのではないかとしたが、むしろビートルズの影響が大きいのではないか。

次の図で見ると、ビートルズのメンバーがそろってヒゲを生やしたのは1967年から。


The Beatles: A Decade in Facial Hair vs. Fashion - Ünnecessary Ümlaut

また、こちらのブログ記事「ビートルズの髭のなぞ」によれば、メンバーがヒゲを生やしはじめたのは1966年の秋からで、ポール・マッカトニーが自損事故で唇を縫ったあとを隠すために伸ばし、ジョージ・ハリスンはインドを訪れるさいにシタールの師であるラヴィ・シャンカールの勧めでヒゲをたくわえ、これらに他のメンバーがならって全員がヒゲを伸ばしはじめた。
そして、66年11月に発表された宣伝用写真でヒゲをはやしたビートルズが初めて公開され、翌67年に発売されたアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』でヒゲ面の写真がジャケットを飾った。この1967年は、上のグラフで学生の顔ヒゲが増えはじめた年と一致している。


The Beatles – Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band [Tracklist + Album Artwork] | Genius

データはあげられないが、若者のファッションに与えたビートルズの影響はこれ以前からはじまっていたはずで、マッシュルームカットが知られると若者のあいだでこの髪型を真似るものが現れ、さらにメンバーがそれぞれ勝手に髪を伸ばしはじめると、若者も長髪化するといった流れがあり、それに続いたヒゲの流行もビートルズにならったものに違いない。ミリタリールックの流行もビートルズがきっかけだったはずで、当時の若者ファッションへの彼らの影響は、音楽ファン以外にも追随者が広がったという意味では音楽の影響より大きかったのではないか。